変わる場所、変わらぬ想い。麻布十番から新富町へ|洋菓子店「つれづれ」の店舗づくり
今回ご紹介するのは、東京都中央区新富に移転オープンした洋菓子店「つれづれ 徒然菓子店」様です。
麻布十番の路地裏で約4年間、多くのお客様に親しまれてきた「つれづれ」様。店主でありパティシエの村井さんは、店舗の契約更新ができなくなったことをきっかけに、新しい場所でお店を始めることになりました。
慣れ親しんだ街を離れ、限られた時間と予算の中で進めた店舗移転。新店舗では、これまで大切にしてきた想いはそのままに、外観や販売方法、厨房の使い勝手を一から見直しました。
今回、その店舗づくりをお手伝いしたのが紡ぐ工房です。
この記事では、麻布十番から新富町への移転の経緯や、新しいお店に込めた想い、居抜き物件ならではの難しさ、そして紡ぐ工房との出会いについて、オーナーの村井さんにお話を伺いました。
退屈な日にも、ふらっと立ち寄れるお菓子屋さん
ーまずは、お店のご紹介と「つれづれ」という名前の由来を教えてください。

「つれづれ」は、『徒然草』の「徒然」から名付けました。「することがなくて退屈な」という意味があるのですが、そんな何でもない日にも、ふらっとお菓子を買いに立ち寄っていただけるようなお店にしたいと思ったんです。
あとは、日本人にとって馴染みがあって、覚えていただきやすい名前にしたかったというのもあります。
麻布十番でお店をオープンしたのが約4年前です。地元のお客様を中心に、普段のおやつやギフト、手土産など、いろいろな用途でご利用いただいてきました。
ーパティシエとしては、どのような経験を積まれてきたのでしょうか?
製菓専門学校を卒業した後、亀有にある「La Rose des Japonais(ラ・ローズ・ジャポネ)」に入社して、6年間働きました。
その後はレストランで働いたり、専門学校で講師をしたりして、3年ほど経験を積みました。
それから、兄が麻布十番で飲食店を営んでいたこともあって、独立して自分のお店を始めることになったんです。
お菓子を作ることから販売まで。そんな村井さんが一人で営んできた「つれづれ」に、思いがけない転機が訪れます。
麻布十番から新富町へ。突然決まった店舗移転
ー今回、麻布十番から新富町へ移転することになった経緯を教えてください。
実は、麻布十番のお店の契約を更新できないことになったんです。ちょうど2回目の更新のタイミングでした。
退去する半年前に更新できないと伝えられて。それまでは、これからも麻布十番でずっと続けていくつもりだったので、正直焦りました。
4年間営業してきて、地元のお客様や常連の方もいらっしゃったので、最初は麻布十番の周辺で物件を探していたんです。
でも、なかなか条件に合う物件が見つからなくて。
2階の物件なども検討しましたが、お菓子屋さんで2階というのもどうなんだろう、と。
そこで、少しずつ探すエリアを広げていきました。
ーその中で、新富町を選ばれた理由は何だったのでしょうか?
実は、新富町という場所をそれまであまり知らなかったんです。銀座は知っていても、新富町にはほとんど来たことがなくて。
でも、実際に足を運んで調べてみると、個人で営まれているお店が多くて、面白い街だなと思いました。
オフィス街であり、暮らしの場でもある。平日は会社員の方の人通りがあって、土日は比較的静か。そういう街の雰囲気もいいなと感じました。
麻布十番では手土産やギフトを求めるお客様も多かったので、銀座から歩いて来られる場所というのも魅力でした。いろいろ探した結果、たまたま出会ったのが、この物件だったんです。
路地裏に見つけた、新しいお店のかたち
ー物件選びや、新しいお店づくりで特にこだわったことはありますか?
以前のお店も大通りから一本入った路地裏にあったので、今回も同じように、少し落ち着いた場所がいいなと思っていました。
あとは、一人でお店をやっているので、広すぎないことも大切でした。
今回のお店づくりでは、前のお店のイメージを一新したいという気持ちがありました。以前の印象を残すのではなく、新しい「つれづれ」のお店にしたかったんです。
ー今回は、お客様が店内に入らずに購入できる、窓越し販売のスタイルになっていますね。

そうなんです。窓越しで販売するスタイルは、以前からいいなと思っていました。
麻布十番のお店は半地下にあって、階段を3〜4段下りないと入れなかったんです。ちょっと入りづらさがあるなと感じていて。
今回は通りに面した窓から、そのままお菓子を選んでいただけます。
お店の前を通った人にも、気軽に立ち寄ってもらえるようにしたかったんです。
それから、外観にはストライプのオーニング(軒先のテント)を取り入れました。
これはデザインを決める中でご提案いただいて。これまでの印象から変わりつつ、お店の雰囲気とも合っていてとても気に入っています。
一人で営むからこそ、厨房の使いやすさを大切に
ー厨房の設備やレイアウトも、以前のお店から大きく変わったのでしょうか?

そうですね。以前のお店から持ってきた機材もありますが、ほとんど新しくしました。
せっかく新しいお店をつくるのであれば、一人でも動きやすい厨房にしたかったんです。
厨房機器の会社の方とも相談しながら、作業の動線や機材の配置を考えました。
特に大きくなったのが冷凍設備です。クッキーなどの焼き菓子がメインなので、伸ばした生地を保管したり、仕込みを進めたりするために、大きな冷凍庫を入れました。

今回の移転で、製造できる量はかなり増えました。ミキサーも大きくなって、以前のお店では難しかったことにも挑戦できるようになったんです。
一人で製造から販売までを担うからこそ、日々の作業のしやすさが、そのままお店の運営にもつながります。
見た目のデザインだけではなく、限られた空間の中でどのように働くか。その視点も、今回の店舗づくりで大切にした部分でした。
居抜き物件だからこそ見えてきた、想定外の工事
ー今回の移転やお店づくりで、大変だったことはありますか?
一番は、物件の中を十分に確認できないまま、計画を進めなければならなかったことですね。
前のお店がまだ営業している状態だったので、何もない状態で内見することができなかったんです。
もともとお菓子屋さんだった物件なので、最初は外観を変えるくらいで営業できるのではないかと思っていました。
でも、実際に中を確認してみると、汚れているところや直したいところが出てきて。設備についても、想定していなかった工事が必要になりました。
ー具体的には、どのような部分でしょうか?

例えばエアコンです。前のお店ではその場所にエアコンがなくても営業できていたようなのですが、今回の間取りでは、区画を仕切ると暑くなる可能性があると教えていただきました。
あとは、トイレの前の小部屋ですね。保健所の営業許可に必要な条件を満たすため、トイレと厨房の間に新たな区画を設けることになりました。
こうした工事が少しずつ増えていって、当初の見積もりから費用も大きく変わりました。
居抜き物件だから、ある程度そのまま使えるだろうと思っていたのですが、実際には分からないことがたくさんあるんだなと感じました。
前の店舗が営業中だったこともあり、設備業者さんや工事関係者の現地確認の日程調整も大変でした。
ただ、半年という期間は最初こそ短く感じましたが、振り返ってみると、何とかなるものなんだなとも思いました。
取材者ノート
居抜き物件は、既存の設備を生かせる可能性がある一方で、実際に使い始めるための工事がどこまで必要になるか、事前には見通しにくい部分もあります。今回の移転は、物件選びから施工計画まで、さまざまな判断を重ねながら進めることになりました。
紡ぐ工房との出会いは、マッチングサイトから
ー今回、紡ぐ工房に施工をご依頼いただいたきっかけを教えてください。

内装業者さんとのつながりが特になかったので、一から探すことになりました。
インターネットで調べている中で、店舗デザイン.comというマッチングサイトを見つけたんです。
そういうサービスがあることも知らなかったので、最初は少し半信半疑でした。どんな業者さんから連絡が来るんだろう、大丈夫かな、という気持ちもあって。
でも、ほかにあてもなかったので、まずは使ってみようと思いました。
そこで紡ぐ工房の矢野さんからメッセージをいただいたんです。
ほかの業者さんから届いたメッセージは、決まった文章を送っているように感じるものもあったのですが、矢野さんからのメッセージは、最初から親身になってくださっている印象がありました。
それで、この方にお願いしてみようかなと思ったんです。
取材者ノート
(矢野社長によると、)村井さんが店舗デザイン.comで、紡ぐ工房が手がけた阿佐ヶ谷の洋菓子店の施工事例に「いいね」を付けていただいたことが、マッチングのきっかけになったそうです。
紡ぐ工房は、自社サイトやSNSでお問い合わせをいただくことが多く、マッチングサイトを通じた案件への応募を積極的に行っているわけではないため、今回は偶然にも嬉しいご縁となりました。
言葉にならないイメージを汲み取ってくれた
ー紡ぐ工房と一緒にお店づくりを進める中で、印象に残っていることはありますか?
ひとつは、レスポンスが本当に早かったこと。
それから、私は自分の好きなものや、こういうお店にしたいというイメージは頭の中にあるのですが、それを言葉にするのがあまり得意ではないんです。
なので、「こういう感じなんですけど……」という伝え方になってしまうことも多くて。

でも、矢野さんはそこを汲み取って、「それなら、こういうことができますよ」と具体的に提案してくださったんです。
自分のイメージをビジュアルに落とし込んでもらえたので、とても進めやすかったですね。
ー打ち合わせはオンラインが中心だったそうですが、不便はありませんでしたか?

特になかったです。資料を画面で共有しながら確認できるので、問題なく進められました。
やり取りも早かったですし、分からないことや希望を伝えると、きちんと受け止めて提案してもらえました。本当に、汲み取り力が素晴らしいと思います。
ー逆に、もっとこうしてほしかった、というところはありますか?
工事については特にないですね。
もちろん、予算がもっとあれば、フロア全体を変えたり、トイレまわりも新しくしたり、やりたかったことはあります。ショーケースも、本当はもっと大きなものにしたかったんです。
でも、初期費用には限界があるので、できることとできないことを考えながら進めました。その中で、できることは精いっぱいやっていただいたと思っています。
新富町から広がる、これからの「つれづれ」
ー新しい街で、これから「つれづれ」をどのようなお店に育てていきたいですか?
まずは、この街に根付いて、長く続けられるお店にしていきたいですね。新しい場所なので、これから少しずつ常連のお客様を増やしていきたいです。
それから、今後は卸売にも挑戦していきたいと思っています。麻布十番にいたときからやってみたい気持ちはあったのですが、以前のお店では製造スペースや設備の容量に限界があって、なかなか難しかったんです。
今回の移転で設備が充実して、製造できる量も増えたので、少しずつ販路を広げていけたらと思っています。
ー今後も焼き菓子が中心になるのでしょうか?
そうですね。クッキー缶などの焼き菓子をメインに置きながら、季節に合わせた生菓子も作っていきたいと思っています。
今回の新しいお店に合わせてオンラインショップのリニューアルを進めているんです。
新富町に来てくださるお客様はもちろん、これからはもっと幅広い地域の方にも、「つれづれ」のお菓子を知っていただけるようにがんばります。

これからお店を開く人へ。大切なのは続けられること
ー最後に、これからお店を開こうとしている方や、移転・改装を考えている方へアドバイスをお願いします。
(「私なんかがアドバイスするのも恐れ多いのですが……」と、少し恐縮しながら)
やっぱり、最初にどこまでお金をかけられるのか、きちんと考えておくことが大切だと思います。
私も、もっとこうしたいという希望はたくさんありました。
でも、以前から周りの人に、開業するときに現金がなくなってしまうのが一番怖いと言われていたんです。お店を開くことがゴールではなく、その後も営業を続けていかなければいけないので。
だから、残せるお金はできるだけ残しておこうと考えていました。
やりたいことをすべて最初に実現しなくても、売上ができてから少しずつ手を加えていくこともできますよね。
今回のお店づくりでも、予算との兼ね合いで見送ったことはいろいろあります。
でも、それは単純に諦めたというより、これからもお店を続けていくための判断だったと思っています。一度、思いがけない移転を経験したからこそ、何が起こるか分からないという気持ちもあります。
これからお店を始める方にも、開業時の予算と、その後に必要なお金のことを、しっかり考えていただけたら、というのが私なりのアドバイスです。

取材者ノート
新しいお店に込めたい想いと、現実的な予算。その両方に向き合いながら完成した「つれづれ 徒然菓子店」様の新店舗。
場所は変わっても、何気ない日にふらっと立ち寄れるお菓子屋さんでありたいという想い。新たな街でも、地域の人々に親しまれ、愛されるお店になっていく。そんな姿が目に浮かびました。
ギャラリー




















編集後記
麻布十番から新富町へ。約4年間営んできたお店を離れることになった村井さんにとって、今回の移転は決して予定していたものではありませんでした。
それでも、限られた時間の中で物件を探し、新しい場所でどんなお店をつくるのかを考え、必要な設備や空間を一つひとつ選んでいく。その過程には、お店を続けていくための現実的な判断がありました。
特に印象的だったのは、初期費用についてのお話です。
理想のお店をつくろうと思えば、やりたいことはいくらでも増えていきます。しかし、お店は完成して終わりではありません。その先に続く日々の営業や、将来の新しい挑戦のために余力を残しておくことも、大切なお店づくりの一つです。オーナーの村井様からは堅実で丁寧なプラン設計を感じました。
また、今回のインタビューでは、紡ぐ工房について「汲み取り力が素晴らしい」とお話しいただきました。
お客様の頭の中にあるイメージは、必ずしも最初から言葉や図面になっているわけではありません。対話を重ねながら、その想いや希望を具体的な形にしていくことも、私たちが大切にしている仕事です。
紡ぐ工房では、店舗の新装工事や移転・改装にあたり、物件の条件やご予算、実際の営業スタイルに合わせた空間づくりをご提案しています。
これから店舗の開業や移転をご検討されている方は、ぜひお気軽にご相談ください。